内藤泰弘さんのマンガ「血界戦線」(集英社)より。
マンガそのものは、いわゆるバトルマンガというか。
「トライガン」で有名な内藤作品が好きな方なら好きになれるんじゃないかと思うけど、このコトバに感銘を覚えて見たら、全然イメージと異なっちゃうかもしれない。
30数年の人生の中でも、困難にブチ当たった経験というのは、相応にあったと思う。
正直に言ってそのすべてに向き合えたかというと、その自信はなく、たぶん逃げ出したこともあったと思う。
何から逃げ出したのか。
それはきっと「決めること」からだ。
ビジネスの場では「意思決定」というコトバがよく使われる。
「意思決定者≒一定以上の地位にある人」と思われがちだけれど、必ずしもそうではなくて、大なり小なりボクらは意思決定を日々生きていく中で行っている。
ではなぜ「意思決定者≒一定以上の地位にある人」と思われるのか。
それはたぶん、多くの人を巻き込むほどの意思決定をする権利があるのが、その地位にある人だからだ。
多くの人を巻き込む意思決定というのは、それは恐いものだ。
自分の決定が他人に大きな影響を及ぼしかねないとき、その責任の重さから、なかなか足を踏み込めなくなってしまう。腹を括れなくなってしまう。
若いころにそれなりに決断経験を積み重ねていくことで、その責任の重さにも少しずつ耐えられるようになっていくのだけれど、それでも肩にのしかかるものは重く、本当に重く、気づけば肩なんて凝りっぱなし。胃腸なんて荒れっぱなし。
「重い」という表現は決して比喩じゃないんだな、なんてことを実感しながら、その状態が「普通」になっていき、なんとか日々を生き延びている。
そうやって決断経験値を積み重ねていったとしても、ある日突然、とびきり重たい意思決定を迫られる瞬間というのがある。
このGWが始まったばかりの4月29日、東北新幹線が予期せぬ停電により4時間半の運休を強いられた。その日のトップニュースとして取り上げられ、線路を歩いて駅に戻る乗客の姿や、ハワイに行けなくなってしまったことを困り気な顔で話す女性の姿が映し出されていた。
電車のような、公共の交通機関というのは、少しのズレが多くの人に影響を与えてしまう。
海外に行ったことがある人ならわかると思うけれど、日本の交通機関の時間に対する正確さというのは、世界に圧倒的に誇れるほどのレベル。
時間通り来ないのは当たり前。車体の行先表示と掲示板の行先表示が違ったり、乗っている途中で行先が変わったり。ニューヨークでもイタリアでもそうだった。
でも、日本人にとっては、決められた時間に決められた場所に行くことが当たり前。
ボクらにとってはそれが「普通」のこと過ぎて、事故などで大幅に遅れたりした際、やり場のない怒りは鉄道会社に向いてしまったりする。
1分の狂いもない正確さを、当たり前というレベルで求められる中、いつも以上に多くの人が利用する大型連休の初日に起こってしまった事故。
4時間半という運休時間を経て、東北新幹線は再開を意思決定した。
停電の理由となった架線の破断の原因がつかめないままに。
ボクはこの電車に乗っていなかったから、客観的に、冷静に、他人事のように考えることができるのかもしれない。ただ電車というのは多くの乗客の命を預かる仕事。一歩間違えれば大事故を起こしてしまう危険性をはらんだ仕事。
大型連休という、多くの人が移動をする時期においては、万が一の時の被害も大きくなるし、かといって運休による影響を受ける人も大きくなる。
原因がはっきりとしない限り、また再発する可能性がある。
もしかしたら、停止なんてレベルでは済まない事故につながってしまうかもしれない。
でも、このまま電車を止めていたら、大型連休を楽しみにしていた人に大きな迷惑をかけてしまう。
運休を続けるか、再開か―――。
難しい意思決定だったと思う。
正解は、結果論でしか語られない、重い重い意思決定だったと思う。
頭の中の天秤が左右に傾きながら、必死に情報を集めて。
集めた、ハッキリとしない情報の中で、必死に考えて。
そしてついに腹を括るまでの、4時間半。
その時間が、長いのか短いのか、ボクにはどちらとも言うことはできない。
困難にブチ当たった時こそ本当に目を見開いて向き合う瞬間
目を見開いて向き合った4時間半。
名前も顔も知らない方が、名前も顔も知らない乗客の希望と安全を必死に考えて、考えて考えて考え抜いて、それでも正解なんてわからず、最後は腹を括る、その覚悟までにかかった4時間半。
結果として、今のところそれから大きな事故もなかったので、正しい意思決定だったのだと思う。
逃げられない環境だったとはいえ、逃げずに腹を括って意思決定を下した名もないファイターを、そしてその意思決定を元に奮闘した鉄道職員のみなさんを、ボクはたたえたいと思うんだ。運休被害に巻き込まれずに済んだ傍観者である自覚と共に。
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「でも」が100個揃えば開く扉があればいーが、はっきり言って、ねーよそんなドア!! from 3月のライオン
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